福祉体験学習ガイド

4.体験学習

(4)疑似体験・介助体験

Q4-4-1:疑似・介助体験でどんなことが学べるのでしょうか?

  ◆インスタント体験プログラムの広がり

  福祉教育の世界では「アイマスク体験」や「車椅子体験」「高齢者の疑似体験」など様々なインスタント体験プログラムが開発されています。実体験に乏しい子どもたちとって、これらは刺激や興味を引き出すことが大きく、教師にとって手軽に取り組めるプログラムとして最近よく利用されます。しかし、このようなプログラムが子どもたちのどのような学びを助けることができ、どこに限界をもっているのかまで明確に認識して利用されている先生方は意外に少ないのではないでしょうか。
  インスタント体験プログラムで学習できると考えらることは、大きく分けると3つあります。1つは高齢者や障害者などを擬似的に体験できるという「疑似体験」、2つ目が高齢者や障害者などの介助の方法を学べるという「介助体験」、そして3つめが高齢者や障害者などの立場になって建物やまちの構造を調べるために行う「バリア体験」です。

  ◆子どものうちから介助技術を身につけよう

  車椅子の扱い方やガイドヘルプのあり方を学ぶ「介助体験」については、様々な場面で役に立つものなので、学校教育でも積極的に取り組んでいただきたいと思います。しかし、これも身近に高齢者や障害者の実感がないと「ごっこ遊び」で終わってしまう可能性があり、車椅子や白杖などが遊び道具になってしまう場合もあります。こうならないように、高齢者や障害者との出会いの場をつくり、このような道具がその人たちの生活にとって不可欠な道具であることをきっちり教えることも重要です。実際の介助場面では、一瞬の不注意が大きな事故につながる可能性があることもしっかり指導しておく必要があります。  また、実際の介助は、人によって少しずつ介助方法への要望が異なるものです。相手にどうしてほしいか聞きながら、相手に合わせて臨機応変に動くことの大切さも教えておいてください。

  ◆疑似体験で学べること

  そのうちの「疑似体験」については、最近、これで本当に障害者や高齢者のことが理解させられるのだろうかと疑問の声が出てきています。アイマスクで体験する健常者の暗闇体験は、生まれつき目が見えない人が聴覚や触覚など別の感覚を研ぎ澄ましながら環境認識しているのとは大分異なるもののようです。車椅子体験も、いざとなったら足をつくことのできる健常者とそうでない肢体不自由者では感じ方が違います。また、疑似体験は子どもたちに高齢者や障害者が「不便な生活をしている」というマイナスの面を強調して実感させますが、実際の対象者はその不便さを乗り越える方法を自分なりに見つけていることも多く、擬似体験者が感じるほどに不便や不幸さを感じていない場合も多いようです。ゆえに、疑似体験を実施する場合には、この体験は実体験と同じものではないことを明確に伝えることが必要になります。最近は、その誤解をおこさせないために、この疑似体験を実際の障害者や高齢者と一緒に実施しようという試みも広がっています。

  ◆バリアフリー体験からまちの構造を考えてみよう

  建物やまちの構造を高齢者や障害者の立場で考える「バリア」や「バリアフリー」意識は、日本のまちづくりではまだ認識の薄い分野なので、子どもの頃からこの視点をもつように指導することはとても意味があります。車椅子でまちを探検するだけでなく、白内障を疑似体験できる眼鏡をかけて、まちの看板や標識を調べたり、指を動きにくくして袋類を開けてみると、私たちの生活環境がどれだけ健常者向けにできているのか学習できると思います。しかし、これも「バリアー体験による調査」と「実際の障害者が感じる不便さ」とでは微妙な違いがありますので、実際の障害者と一緒にまちへ出て、バリアーの意味をともに考えていくような方法も取り入れたいと思います。また、「バリア」という問題点探しばかりをするのでなく、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」の工夫を発見、評価できる学習もしてみてください。

コラム:車椅子で遊んでしまう子どもがいるのですが・・・

  車椅子体験やアイマスク体験を学校で行うと、時々、車椅子や白杖で遊んでしまう子どもたちを見かけます。車椅子をスピードを出して押したり、自分でこいで競争したり、折りたたみの白杖を振り回す子どもたちまで見かけ、はらはらさせられることがあります。かし、これは危険ですし、車椅子や白杖が障害者の日常生活を支える大事な道具であることが子どもたちに伝わっていないようです。ゆえに、こんな様子を見かけたら、先生方は子どもたちにそれをしっかり伝えていただきたいと思います。毎日使う車椅子や白杖が壊れてしまったら、障害者の生活はどうなってしまうでしょうか。社会福祉協議会から借りてきた車椅子が壊れてしまったら、借りたい人に貸し出せなくなってしまいます。そのけじめをしっかり教えておくべきだと思います。
  大人の世界でも、障害者用の駐車場に少しの時間だからと平気で止めていく人が見受けられます。しかし、そのちょっとした時間で障害者が困ることがあるのです。そんな大人にならないための配慮の指導が、この体験学習でも必要に思います。

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Q4-4-2:手話や点字を学んでみたいのですが・・・

  ◆手話や点字を教えてくれる人を探すには

  視覚障害者や聴覚障害者をテーマに学習を進めようとすると、必ずと言っていいほど、子どもたちから手話や点字を学習したいという声があがります。それらを教えてくれる人を探してほしい場合には、社会福祉協議会のボランティア・センターに問い合わせてみることです。地域で手話や点字を使ったり、教えたりしている障害者や障害者団体、手話や点字で障害者支援をしているボランティアやボランティア団体などを紹介してくれます。

  ◆何のために手話や点字を学ぶのか

 ただ、このような手話や点字を学ぶ場合、自分たちが何のためにそれを学ぼうとしているのかを、子どもたちの中でどこかで意識化できていないと、その学習が目的を失い、ただの遊びになってしまう可能性があります。点字で50音を覚え、色画用紙に好きな言葉を打ってしおりにしたり、手話の簡単な挨拶をおぼえて、友だち同士で挨拶しあったり、それはとても楽しい経験です。しかし、それを楽しむだけ楽しんで、それを使う人たちの気持ちや立場にまったく目が向かなかったとしたら、その学習にはどういう意味があったことになるのでしょうか。
  手話や点字は視覚障害者や聴覚障害者のコミュニケーション手段の1つです。聴覚障害者とコミュニケーションをとりたいと思う気持ちがでてきたり、視覚障害者に何かメッセージを送りたいという気持ちが少しでも芽生えたところで、この手話や点字を学ぶようにすることが大切であるように思います。

  ◆視覚障害者の様々なコミュニケーション手段

 視覚や聴覚の障害者のコミュニケーション手段が手話や点字だけでないということを知っておくことも重要です。目が見えない方が、誰でも点字を使えるわけではありません。生まれつき視力がなかったり、比較的に若いうちに視力を失われた場合には、盲学校や特別な訓練機関で点字を学び、それを使いこなせる方がたくさんおられます。しかし、中高年期になって視力を失った場合には、点字を習得するのは難しく、点字情報はほとんど利用されてしていません。代わりに文字情報を読んであげたり、録音テープやラジオなどの音声情報を提供するという形で支援をすることになります。また、文字をかなり大きく拡大すれば何とか文字を読める視覚障害者もいますので、その配慮も必要となります。
 最近、視覚障害者向けのパソコン機器の普及により、文字入力をパソコンで行ったり、文字情報をパソコンの音声ソフトで聞いたりして、点字をほとんど使わない新しい世代の視覚障害者も出てきていることも知っておきましょう。

  ◆聴覚障害者の様々なコミュニケーション手段

 聴覚障害者も同じです。耳の聞こえない方でも手話をつかえる人はある一部です。聴覚障害者教育にも様々な考え方があり、或る時代、聾学校でも、手話は使わず、口の動きから話を読み取る「口話」という手段を主に教えようという時代があったように聞きます。また、手話にも、「日本語対応手話」や「日本手話」という方式の違いがあるとともに、地域によって方言もあるようです。また、このような手話や口話という手段も、高齢者になってから耳が聞こえなくなったり、話ができない状態になったような方には、簡単に利用できるようなコミュニケーション手段ではありません。覚えるのにはかなり時間がかかり、その習得をあきらめられる中途障害者も多いようです。そこで、そういう方は、筆記や50音表の指さしをすることで、周囲の方と何とかコミュニケーションをとろうとされているようです。ゆえに、私たちも、聴覚障害者とコミュニケーションをとろうとする場合、相手に応じた方法を取り入れていかなければならないのです。

コラム:聴覚障害者に手話の歌は聞こえません

  ある中学校で、福祉を学ぶ子どもたちが聴覚障害者の講話を聞いた後、インターネットで手話の歌を学び、1ヶ月以上かかってその歌を完成できたので、その歌を講話をしてくれた聴覚障害者に聞いてもらいたいという要望が子どもたちから出てきたことがあります。それに対し、その聴覚障害者は、「手話の歌はやらないことにしています」とその申し出を断られました。ですが、ただ断るだけでは、子どもたちになぜ自分が手話の歌をやらないのかが伝わらないと、その理由を中学校に行って話してくれることになりました。理由を簡単に言えば、「聴覚障害者である自分には手話の歌が聞こえないので、それを楽しいものとは思えないから」のようです。その思いを、子どもたちと様々な対話を繰り返すことで、伝えようとされたのです。最初は、断られたことで、間に入ってくれた先生に対し「自分たちの1ヶ月の努力をどうしてくれる」と怒っていた子どもたちも、当日はその話に納得し、最後にその聴覚障害者から手話を教え直してもらうことになりました。帰り間際に、その先生は「手話は最初が肝心なので、自己流で間違ったまま覚えるようなことはやめてほしい」と子どもたちに言っておられました。書籍やテレビ画面だけで学習をしていると、指が反対を向いて間違って覚えたりするそうです。手話を学ぶとき、こんな聴覚障害者の気持ちにも目を向けながら、学習をしていくことが大切なようです。

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