福祉体験学習ガイド

1.素朴な疑問、基礎の基礎

Q1-1:福祉を学ぶことになったのですが、何から始めればよいでしょう?

《身近な問題から見えてくる福祉》

 福祉を学ぼうとするときには、まず、子どもたちの身近なところから問題を探っていくのがよいと思います。福祉について、言葉や概念(例えばノーマライゼーションとか、ボランティアとか)から学習しようとすると、どうも難しそうで、取り組みにくくなります。でも、具体的な事柄から考えていくと、福祉は身近なものとなっていくのでないでしょうか。いま、地域や学校でどんなことが問題となっているのか。その問題を解決していくにはどうしたらよいのか。身近なところに、福祉のことを考えるきっかけはたくさんあります。自分の身の回りや地域でどんなことが課題になっているのかを話し合ったり、書き出して見るのも一つの方法です。新聞記事やテレビ番組などを話題に自由に話し合ってみると、自分たちが気になるテーマが見えてくることもあるのでないでしょうか。言葉や概念は、想像力の上になりたちます。福祉のことを考えるというのは、福祉という言葉から、何を想像するかということです。身近な問題として、どれだけ想像力を働かせることができるかが、これからの展開の鍵になると思います。

《子どもたちと一緒に体験しながら学べばよいのでは・・》

  子どもたちに間違った福祉観や障害者観を伝えないようにするには、福祉教育に取り組む前に、福祉の基本の教師の方できっちり学んでおく必要があるようです。だからと言って、福祉の難しい理念や制度を全部勉強しなければならないという訳ではありません。しかし、福祉の基礎となる、人 一人ひとりを尊重していく姿勢だけはしっかり身につけておきたいと思います。また、福祉の知識についても、日常的に分かっていると思っていることで、意外に間違って認識していることがたくさんあります。子どもたちの関心が向いていきそうな制度やサービスについては、事前に正しい知識を勉強しておきたいと思います。
 福祉を学ぶための方法としては、「文献を調べる」「福祉関係者の話を聞く」「福祉教育セミナーやフォーラムに出かける」「福祉事業に参加する」「福祉施設へ出かける」「福祉教育の先進校の話しを聞く」などいろんなものがあります。私たちの地域で出来ることについてはこのハンドブックにも載せておきましたので、いろいろ試してみてください。

《子どもたちの関心を広げられる教材やテーマ選びを・・・》

 福祉を学習することは教材やテーマを「高齢者福祉」や「障害者福祉」といったものに限定する必要はありません。
 ある学校では、1年間のテーマを「車椅子」とし、様々な角度から車椅子を考えてみました。そこでは、車椅子を利用している人の話を聞くだけでなく、車椅子を作っている人や修理をしている人の話も聞きました。いろんな種類の車椅子があるのも勉強しましたし、車椅子の動かし方や介助の方法を勉強し、車椅子利用者と一緒にまち探検にも出かけてみました。空き缶を集めて車椅子を贈る運動をしている人たちのことを新聞記事で知り、その話も聞きに行ってみました。子どもたちは、車椅子を通して、いろんな人の存在や活動があることを学んだのです。
  福祉の学習だからといって固く考えず、子どもたちが興味をもってくれそうなところから始めてみればよいのでないでしょうか。

《教師自身が好奇心や関心を持てる教材を選ぶことも・・・》

  子どもたちだけでなく、教師自身が好奇心や関心をもてるテーマや教材を選ぶことも大切です。教師の熱意や関心が子どもたちに大きく影響をしてきます。教師の問題意識や学ぶ意欲が子どもたちの問題意識を引き出していくと言っても過言ではありません。ただし、教師自身の価値観を押しつけるというのではなく、同じ人間として、子どもたちと教師がともに学びあっていけるような教材やテーマ選びをしていくのがよいのではないでしょうか。

キーポイント

福祉を学ぶテーマや教材は、子どもたちの身近なところから探してみよう!

 子どもたちに福祉を自分のこととして考えてもらうには、子どもたちの身近な課題や題材から福祉に取り組むことが大切です。子どもたちの目線で教材を探してみましょう。 

コラム:「100円玉ひとつで何ができるだろう?」

 私のクラスでは、「100円玉」ひとつをみんなで出し合って、これで福祉のために何ができるだろうという方法で授業を始めてみました。数名のグループに分かれて、グループごとに様々なイメージを膨らましてもらいました。子どもたちの想像力はいろいろで、「これを資金に折り紙を買ってきて、みんなで千羽鶴を折って、老人施設に届けよう」というグループもあれば、「お花の種を買って育てて、その花で福祉施設を飾ってもらおう」というグループもいました。「この100円玉を募金として、発展途上国の子どもたちの医薬品にしてもらおう」などといった子どもたちも出てきました。実現の難しいしいアイデアもありましたが、このワークを通して、子どもたちが福祉について知っていることを語り合ったり、福祉へのイメージを様々な方向で膨らますことができたという意味では、面白いきかっけづくりになったような感じがします。

 

Q1-2:福祉の学習を通して、子どもたちは何を学ぶべきでしょうか?

《一人ひとりが互いを尊重し合えるように・・・》

  福祉は、この社会に暮らす一人ひとりがみんな幸せになるために、お互いを尊重し合い、支え合って生きていこうという考えのもとに生まれました。ゆえに、その基礎として、子どもたちには、この社会に生きる誰もがかけがえのない命や人格をもっており、その生き方や考え方を互いに尊重し合うことが大切であることを学んでもらう必要があります。
  特に福祉の分野では、お年寄りや障害のある方など、社会的な弱者と呼ばれる方々の生活を通して、「一人ひとりを尊重する」とはどんなことなのかを考え、それを日常性の中で実践できる力を身につけることが求められるます。
 だからと言って、「お年寄りには親切にしなくては」「障害者と出会ったら手を貸せるうようになろう」・・・という型通りの「思いやり教育」だけでは一人ひとりを尊重することの意味や大切さを十分に学んでもらうことは出来そうにありません。この社会に生きている、いろんな人に目を向け、その一人ひとりが自分と同じように尊い命や人格を持ち、それぞれの状況の中で一生懸命生きていることを実感し共感できるようになることがまず大事です。そして、それらを学ぶなかで「思いやり」や「他者を尊重する心」のようなものが養われていくのでないでしょうか。
 このような学習は福祉の基礎ですが、人はみな未熟で、大人になってもこれを完全には身につけることはできそうにありません。でも、だからこそ、どの学年になっても、このことは繰り返し繰り返し学びつづけていくことが大事ですし、教師の方も自分に奢らず、子どもとともに学ぶ姿勢を持ち続けていく必要があるようです。

《社会福祉についての理解を深める》

  お年寄りや障害のある方、子どもたちや病気で働けなくなった人たちなど、この社会に生きている誰もが人間らしく、自分らしく生きられるような権利を保障していこうと生まれたのが社会福祉という制度です。人は誰もが、病気や事故など様々な事情で自分ではどうにもならない状況に出会い、生活に困る可能性をもっています。また、子どもの時や年老いて働けなくなった時には誰かに支えてもらわなければ生きていけません。そんな状況の時に、所得保障や日常生活を支えるサービスを提供することで、人間らしい生活を社会的に守ってくれるのが福祉制度です。
 福祉の対象とされる人々が、どんな制度やサービスが利用できるのか、どうしたらそれが利用できるのかを学んでいくことは大切です。福祉の分野には、高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉など様々な分野がありますが、それ全部を一度に学ぶ必要はありません。何らかの分野でサービスの内容や仕組みを勉強しておくと、自分の身の回りで何か問題が起こった場合に、福祉で何がしてもらえるのか、どこに行けばよいのか想像力を広げていけるのでないでしょうか。

《ともに生きる力を身につける》

  福祉の学習を通して子どもたちに身につけてもらいたいものとして、もう一つ重要なのが、この福祉社会の担い手としての「ともに生きる力」である福祉の実践力です。
 人一人ひとりを尊重していく人権意識を基盤に、他者と関わり、他者の立場や気持ちを理解し、他者と交流できる力を身につけていかなければなりません。家族や親族はもちろん、地域社会の人々のほか、日常生活で関わりが薄かったかもしれないお年寄りや障害のある方などとも関わり、交流する力を身につける必要があります。そこでは、お年寄りや障害のある方を介護や支援できる知識や技術を学ぶ必要も出てきますが、それ以上に相手の気持ちや考えを尊重し、共感できる力を身につけ、必要に応じた支援ができるようになることも求められています。
  また、高学年になると、この福祉社会はこの社会に生きる人々でともに作り上げているのだという認識を、どこかで学習していく必要があります。年金制度の話題にも出ているように、様々な福祉制度や社会保障制度は国民の合意や協力がなければ成り立たないもので、その必要性を子どもたちには学んでおかなければならないのではないでしょうか。また、これからは地方自治の時代と言われています。自分たちの暮らす地域の福祉制度をどうすればよいかを考えることができ、その実現のために行動できる子どもたちを育てていく必要があります。

キーポイント

一人ひとりを尊重する姿勢の大事さを、まず伝えていきたい・・・

お年寄りとも障害者とも自然体で交流でき、一人ひとりの生き方や考え方を尊重できる姿勢を、子どもたちに伝えていきたいと思います。そこで大きな影響力をもってくるのが、体験学習で出会う様々な人々と接するときの「教師自身の姿勢や態度」のようです。教師が自分自身の行動をふりかえる時間をもってみましょう。

コラム:小学校と中学校で同じことをしていて良いの?

 同じ地区内の小・中学校で、同じ障害者をゲストティーチャーに招いていたり、同じ施設に訪問に出かけたということよくある話です。中学校で車椅子体験を企画すると、子どもたちから「小学校のときにやった」という声が聞かれることもあります。しかし、同じ体験であっても、ねらいや目標を変えて実施したり、事後学習で視点を変えて見直してみると全く異なったことが学習できます。また、繰り返しの体験は、その前の経験の反省をうまく活かしていくと新しい気づきをもたらしてくれることも多いようです。
 体験は1つの教材です。同じ体験であることを恐れずに、対象となる子どもたちの認識能力の発達状況や子どもたちの日々の生活や関心状況を見極め、その学習ごとにねらいを定めながら進めていきましょう。

 

Q1-3:福祉の学びには、やはり体験学習が必要ですか?

《「ともに生きる力」を身につけるには、体験学習が効果的》

  福祉の実践力である「ともに生きる力」を身につけるには、やはり体験学習が大きな意味をもちます。福祉の学習は、知識だけ身につけても、それが日々の生活のなかで生きるようなものにならなければ何もなりません。日々の生活の中で、様々な人々の立場や生活課題に配慮できるようになるには、「福祉課題を抱える人々」や「人のために何らかの仕事や活動をしている人々」「支え合いながら生きている人たち」の「実感」が必要になりますし、その人たちとともに「課題を抱えながら生きること」や「課題解決のために何ができるか」を考えてみることが求められます。この実感や「問題解決型」の学習を可能にしてくれるのが体験学習です。

《様々な人々との出会いが、人生への視野を広げてくれる・・・》

 日常生活で福祉課題をかかえた人々との出会いの少ない子どもたちに対し、体験学習で教師は意図的に子どもたちにその出会いを経験させることができます。お年寄りや障害のある方、乳幼児などとの交流の場を作り出していくことで「老いること」や「障害があること」、「乳幼児の世話をすること」「病気になること」「死をむかえること」などを考えて機会をもってもらうことができるのです。また、家庭や学校社会とは異なる「施設」という生活空間に足を踏み入れたり、福祉や介護の仕事やボランティア活動に取んでいる人々と交流する機会を作り出すこともできます。こんな出会いは、子どもたちの人生や社会に対する視野を大きく広げさせていくのでないでしょうか。福祉の学習では、この視野の広がりが求められます。

《相互コミュニケーションの学びは、体験学習でこそ・・・》

  他者を理解したり、他者の気持ちや立場に共感できるようになるには、他者との相互コミュニケーションを繰り返していくことが重要となります。この学びを可能にしてくれる方法として効果が期待できるのが体験学習です。机の上だけの学習だと、どうしても一面的な理解や一方的な思いこみの理解であることが多いものです。それに対し、体験学習では、分からないことがあればいつでも相手に尋ねることができますし、自分が理解できたと思ったことや感じたことをその相手にぶつけて、その反応をみながら、自分の認識を修正したり、作り替えたりして、その理解を深めていくことができます。人を理解することの難しさやその理解にはコミュニケーションの繰り返しが重要であることを肌で教えてくれるのが体験学習であり、体験学習に取り組むからにはこの相互コミニュケーションを大切にしていきたいものです。

《体験学習は、「行動を変えていく勇気」を持たせてくれる》

  私たちが態度や行動を変えようとするのは、何らかの経験や学習で、自分を変える必要性に気づいたときです。しかし、そんな時もすぐに自分を変えられることは少なく、どこかで新しい行動を試してみて、それがうまくいくと感じられようになってたときに徐々に自分を変えていけるもののようです。体験学習は、この変容を試す機会にもなりえます。例えば、障害のある人と話をするのが怖いと感じていた子どもたちが、体験学習の中で障害者と話をする機会をもって、その後、日常生活の場面でも障害者とこだわりなく交流できるようになったという話はよく聞かれます。このように体験学習は、日常生活では素直な気持ちで取り組めなかった「他者のためを思った活動」を、試しに始めてみる機会ともなりえるのでないでしょうか。ただ、それが本当に他者のためになっているのかどうか、常に問い返しをしていく必要もあります。

キーポイント

様々な人との出会い体験こそが、福祉の感性を高めていく・・・

福祉に対する感性は、やはり、この社会にいろんな人が生きていることの実感から始まります。その出会いは、地域社会にいっぱいあります。
困ったら・・・・地域の人々やボランティアセンターに出かけて、新しい出会いを紹介してもらいましょう。

コラム:1日体験のために、まとめ取り時間を工夫ました

  体験学習が大切だと分かっていても、学校週5日制になり、そんなまとまった時間はなかなか作れないのが学校現場の実態です。でも、その気になって何とかしようと思ったら、何とか出来るものです。それぞれの学校事情もあるとは思いますが、学校全体でいろいろ考えてみましょう。
 私たちの学校は中学校ですが、福祉体験のために年に何回かのまとめ取りの時間がほしかったので、年度初めの時間割作成時に、同一の学年の同じ曜日の時間割に「総合学習の時間」を入れるとともに、その曜日はその同じ学年担当の教師の科目だけを入るように工夫しました。同じ科目が同じ曜日に入ることもありましたが、それは仕方がこととし、授業が動かしやすいように準備をしたのです。そのお陰で、施設体験などで1日を総合学習にあてたいときに、ほかの学年の授業に迷惑をかけることなく授業変更が出来ることになりました。また、その埋め合わせの授業も同じ学年内職員だけでやり繰りをすることが出来ました。この工夫のおかげで、私たちの学校では、施設の1日体験を3日間実施することができました。

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